「引き寄せの法則って、嘘なんじゃないか」
あるいは「なんか気持ち悪い」と感じながら、それでも検索してこの記事にたどり着いた人へ。先に私の結論を書く。引き寄せの法則は、全部が嘘ではない。ただ、少なくとも当時の私が使うべき道具ではなかった。そして、その見極めがつかないまま数年を溶かした。これはその記録だ。
藁にもすがる思いで、書店にいた
当時の私は、毎日がとにかく苦しかった。人が怖い。職場でうまく立ち回れない。理由の分からない不安が、胸の奥に常にある。今なら、その正体に一部は発達の特性が、そしてもっと深いところに育ちからくる愛着の傷があったと分かる。でも当時は、そんな言葉を知らなかった。
それで、大阪・梅田の大きな書店にいた。藁にもすがる、というのはああいう状態を言うのだと思う。何かにすがりたい。でも何にすがればいいか分からない。そういう人間が書店で吸い寄せられていく棚が、自己啓発の棚だ。そこで私は、引き寄せの法則の本を手に取った。
本当なら、あの日の私が手に取るべきだったのは、愛着障害や発達性トラウマの専門書だった。そのほうが、苦しさの芽をロジカルに、少しずつ摘んでいける可能性が高かった。でも、そうはならなかった。自分の苦しさの「名前」を知らない人間は、専門書の棚に用がない。名前を知らないから、いちばん間口の広い、いちばんふわっとした棚に流れ着く。ここに、この記事でいちばん言いたい構造がある。
引き寄せの法則は「嘘」なのか
フェアに書く。引き寄せの法則的なものの中に、機能する部分はあると私は思っている。なりたい状態を具体的に思い描く。毎日、目標を紙に書く。意識がそこに向き続けることで、行動が少しずつ寄っていく。これ自体は、まともな目標設定の技術と地続きで、否定する理由がない。
「気持ち悪い」と感じる部分も、はっきりある。願えば宇宙が応えるといった検証しようのない因果。うまくいけば「引き寄せた」、いかなければ「願い方が足りない」と、どちらに転んでも理屈が勝つ構造。あの無敵の論法に対する違和感は、あなたの感覚が壊れているのではなく、むしろ正常に働いている証拠だと私は思う。
でも、私が数年かけて理解した本当の問題は、「嘘か本当か」ではなかった。あれはプラスを伸ばすための道具であって、マイナスをゼロに戻す道具ではない——問題は、そこだった。
穴の開いたバケツに、水を注いでいた
当時の私の状態を、いちばん正確に言い表す比喩がある。穴の開いたバケツだ。
安心感が、たまらない。何をしても、誰といても、底のどこかからずっと漏れていく。常に何かが抜けているような不安があって、胸の奥がキュッとなる感覚が消えない。これは、なった人にしか伝わらないかもしれない。毎日、見えない重りをつけて生活しているような、恒常的なハンディキャップだ。
引き寄せの法則がやろうとするのは、このバケツに勢いよく水を注ぐことだ。理想を思い描け。なりたい自分に意識を向けろ。注いでいる間は、水面が上がった気がする。読み終えた直後、一瞬だけ救われた気になったのを覚えている。でも穴はふさがっていないから、数日で全部漏れる。そしてまた別の本を買う。私はこのループを、形を変えて何周もした。
順番が、逆だったのだ。穴の開いたバケツに必要なのは、まず穴をふさぐ作業——つまり、失点をゼロに戻す作業だった。安全基地がない人間、育ちの中で安心の土台を作れなかった人間には、伸ばすより先に、手当てするべき傷がある。プラス方向のメソッドは、土台がある人がさらに上を目指すときに機能する。土台が抜けている人間が使うと、効かないどころか、「これだけ願っても変わらない自分」という新しい失点を追加してくる。
効かなかったのは、あなたの願い方のせいではない
だからもし、引き寄せの法則を試して、効かなくて、「自分の願い方が悪いのか」と自分を責めているなら——少なくとも私のケースでは、原因はそこではなかった。当てる場所を間違えた道具は、どれだけ丁寧に使っても効かない。
私はその後、遠回りの果てに、自分の苦しさに「愛着障害」「発達性トラウマ」という名前がつく領域があることを知った。名前を知ってからは、ふわっとした棚ではなく、専門書と専門家という、手当ての順番が存在する場所にアクセスできるようになった。引き寄せの本を最初に手に取ってから、そこまでに何年もかかっている。同じ遠回りの途中で『嫌われる勇気』にも引っかかったのだが、その話は別の記事に書いた。あれとこれとで、私の「自己啓発が効かなかった」二部作だ。
自分のバケツに穴があるのかどうかを確かめたい人は、愛着障害チェックリストから見てみてほしい。私はほぼ全項目に当てはまった。そして、穴をふさぐ作業は、本を一人で読むより、利害のない専門家と一緒にやるほうが早かった。これは実感として言える。
「穴をふさぐ」ほうから始めたい人へ
Kimochi(オンライン心理カウンセリング) — 公認心理師にスマホから相談できる。自己啓発本で埋まらなかった不安、育ちや自己肯定感の整理に。「まず気持ちを言葉にする」ところから。
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すでに眠れない・動悸がするなど体に症状が出ているなら、カウンセリングより先に医療だと思う。通院がしんどい場合は、エニキュア(精神科・心療内科オンライン診療)のような、自宅から受けられる窓口もある。
最後に——信じている人を、笑いに来たのではない
断っておくと、引き寄せの法則で人生が良くなったという人を、否定するつもりはない。土台がある人がプラス方向の道具で伸びるのは、むしろ自然なことだと思う。あなたが今それで前に進めているなら、私がとやかく言う話ではない。
私が書き残したかったのは、ひとつだけだ。あの日、梅田の書店で藁にもすがっていた私に必要だったのは、願い方の技術ではなく、「あなたのその苦しさには名前があって、手当ての順番がある」という情報だった。もしあなたが、引き寄せが効かない自分を責めながらこの記事まで流れ着いたのなら——効かなかったのは、たぶん道具と傷の種類が合っていなかっただけだ。同じかどうかは、あなたが決めればいい。
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この記事は筆者の個人的な体験に基づくものであり、医学的・心理学的な診断や助言を目的としたものではありません。心の不調が続く場合は、心療内科・精神科やカウンセラー、よりそいホットライン(0120-279-338)などの専門窓口にご相談ください。

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